交渉術、というとなんとなく信用ならない感じを受けるかもしれません。実際にそうした「相手をやりこめる」ようなことも交渉の中には含まれるでしょう。

 でも、この本では特に「価値創造型の交渉」ということを謳っており、その意味の交渉はとてもポジティブに受け止められるし、実際にもあり得ることだと感じられました。

価値分配型と価値創造型

 交渉の2つのパターンとして、「価値創造型」と「価値分配型」が最初に示されています。ケーキをどちらがどの程度食べるか、という時にケーキの大きさが決まっていれば、片方が多く食べた時にもう一方は少なくなってしまいます。当たり前と言えばそうですが、これが価値分配型の交渉です。

 ケーキを追加で買ってきたり、生クリームを増やしてみたりでケーキ自体を大きくして食べると二人ともより多く食べられます。これが価値創造型の交渉ということになります。

 そんなうまい話があるか、と思う方もいるかもしれませんが、価値分配型の交渉しかできないなら、そもそも状況はあまりよくない気がします。何か状況を打開しようとする時、自分だけでは目標に到達できない時にこそ交渉が必要になっているわけです。

 それならば、協力することでしか到達できない目標を探すことで、それ自体が交渉相手への説得材料になるようにするのが王道でしょう。

交渉に臨む際の心構え

これは孫引きになってしまうのですが、心構えとして紹介されている言葉があります。

①積極的に準備をする
②目標を高く設定する
③相手の話に耳を傾ける
④誠実である

(『無理せずに勝てる交渉術』TBSブリタニカ)

 ①~③は交渉に向かう前からの順番通り、そして④は交渉を通しての態度、ということになるでしょう。経済合理性が人徳につながるように見えるのは、いささか啓蒙主義的な、センセイのお説教的匂いを感じないでもありませんが、しかし、まったくそのような相手が前にいれば一緒に協力して物事にあたろうという気持ちにもなるでしょう。

人と人がいれば交渉ははじまる

 ここまではほとんど前置きで、技術的なことも多く紹介されています。互いのBATNA(交渉決裂時の次善策)を注意深く見極めることや、価値観の相違がどのようなところから現れるか、ステークホルダーをマッピングして俯瞰するなどどれも興味深いものです。

 ただ、そうした技術的な面に入っていっても、それぞれが価値創造につなげるためのステップであるという前提を常に持っています。最後の方に対策のため、として少しずるいのも入っていますが、全体を通して、交渉というものに対するポジティブなメッセージが伝わってきます。

 人と人が話したり相談することも大きくとらえれば交渉ごとになるわけで、社外に出ない人であっても交渉から無縁なまま仕事をするというのは難しいでしょう。もし、交渉にネガティブな印象をもっている人がいれば、この本は食わず嫌いを治してくれるきっかけになるかもしれません。

『グロービズMBAで教えている交渉術の基本』著:グロービズ ダイヤモンド社