1兆ドルコーチとは何が1兆ドルなのか?

 この本の帯には「グーグルCEO絶賛!アップルCEO絶賛!ユーチューブCEO絶賛!フェイスブックCEO絶賛!」と書かれていて、かえって怪しさを醸し出していると思ってしまうんですが、なんと彼らは全員、この本の主役である「ビル・キャンベル」に直接「コーチ」を受けてきたということです。

 つまりこの帯文の賛辞は本が書きあがって、読んでもらったというわけではなくて、実際に「ビル」のおかげで、と思うCEOがシリコンバレーを中心にたくさんいたということです。

 本書のタイトルの1兆ドルというのはこうしたコーチを受けた会社の評価額の合計だということらしいです。なんだか風呂敷が大きすぎて見当がつかないですが、中身を見ていきましょう、

まずは「人」から

 人が大事というのはよく言われるものの、それの具体的な表現の仕方は様々です。それは相手と自分と環境とそれぞれの状況、関係性でベストなものは変わってしまうからです。実際に強烈な個性だった「ビル」の真似をすべてする必要はないとも書かれています。(毎週のミーティングに週末何をしたか、旅行したなら報告をしてもらうなんて、すぐにはできないでしょう。楽しそうだけど。)

 特に原理に徹底した人なので3つの原則としてあげられている「支援」「敬意」「信頼」を紹介します。

 「支援」とは、彼らが成功するために必要なツールや情報、トレーニング、コーチングを提供することだ。彼らのスキルを開発するために努力し続けることだ。すぐれたマネジャーは彼らが実力を発揮し、成長できるよう手助けをする。

 「敬意」とは、一人ひとりのキャリア目標を理解し、彼らの選択を尊重することだ。会社のニーズに沿う方法で、彼らがキャリア目標を達成できるよう手助けをする。

 「信頼」とは、彼らに自由に仕事に取り組ませ、決定を下させることだ。彼らが成功を望んでいることを理解し、必ず成功できると信じることだ。

(P.72-73)

 ここに書かれていることは当たり前のように見えるけれども主語がすべて「彼ら」であって「会社の目標」はあくまで補助線であるということが一つのポイントになっていると思います。コーチングする相手の目標を理解しているか、というのが問われているわけです。それがビルの「人」へのフォーカスの仕方。

次に「チーム」

 チームという言葉もよく出てきます。ビル自身がアメフトの選手であり、コーチだったという経緯もあるでしょう。(その分罵り言葉はキョーレツだったみたいですが)個人個人の資質も大事ですが、課題の解決や目標の達成はチームとともにしかありえないという考え方を持っているように見えます。

 問題そのものより、チームに取り組む

問題や機械に直面したら、最初のステップは、

適切なチームを適所に置いて問題に取り組むことだ。

(p.176)

 適切なチームであれば、適切な対応ができるというのは正しくそうでしょう。実際に何故参加しているか分からない人がいたり、関係者なのに外されている人がいたり、これはどちらも必ずよくない影響が出てしまうはずです。

 また、関係者であってもチームファーストでな人間が関わってしまえば、スタンドプレーの場になってしまったり、自分の問題解決だけを優先しようとしたりということがあります。

 ということで、よいチームのためにはよい人材が必要になるわけです。なので、「人」と「チーム」それぞれは関連しながら互いを育てる必要があります。

 ビルほど多くの会社にかかわることはなくても、チームという単位でみればきっと色々なチームに関わることもあると思います。その時にチームそのものがよいチームになれているかどうか、というのをおいて「チーム」をよくするためにどのような行動がとれるか考えてみるのはいいのかもしれません。

 結果にフォーカスはしなかった

 他にも多くのことが書かれています。とりわけ「信頼」については章も作られていますが、詳しくは本書を読んでもらうとして、バフェットにならって「何をしなかったか」を考えてみました。

 すると「結果」にはフォーカスしなかったな、ということが見えてきます。会社組織というのはずっと経営を続けるものです。決算や一つの商品の発表など、節目になるものはありますが、それらも経営が続いている限りは一つの過程にしかならないものです。

 ビルが多くの会社、それも成長途上のものをより強く大きくしてきたのは、会社もしくはチームの成長する力を伸ばそうとしてきたからでしょう。そのために何ができるか。ここでは原則的なものを紹介しましたが、具体的な手法もたくさん載ってます(もちろん全部真似する必要はないのですが)。

 その中で特に「ビル・キャンベル・手拍子(クラップ)」BCCとして紹介されてるエピソードは彼の姿勢を端的に示しているのでご紹介して終わりにしたいと思います。

「ビルは手を叩いて声援を送り、両手でガッツポーズをして、大騒ぎした!」とフィル・シラーは回想する・「彼はプロダクトに感情で反応した。無味乾燥で退屈な、収益しか頭にない取締役のリアクションじゃない。席から立ちあがって、感情を爆発させたんだ」(中略)

 短い熱狂的な手拍子というたった一つのジェスチャーによって、君らの仕事を愛しているとチームに伝え、全員の背中をバンと叩き、なおかつ進み続けろと促したのだ。

(P.244-245)

こんな役員が会議室にいたら、ただの報告がただの報告以上のものになるんでしょうね。ほんと真似しにくいですが。

『1兆ドルコーチ』著:エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル 訳:櫻井祐子